40代転職で年収ダウンを防ぐ人と招く人の分かれ目|元人事が教える成功のための準備

「今の年収を維持できるか自信がない」——40代で転職活動を始めた人から、私はこの相談を数えきれないほど受けてきました。面接の手応えは悪くない。でも内定通知の直前になって、急に不安になる。提示されるのは、今より低い年収なのではないか、と。

結論から言うと、40代の転職で年収ダウンを提示される人と、大きく下げずに転職できる人の差は、面接での話し方の上手さではありません。応募する前の「準備の質」で、すでに七割方決まっています。私は人事として年間500人以上と面接し、書類選考は800枚以上見てきましたが、年収の提示額が固まる瞬間に居合わせるたびに、その差を痛感してきました。特別な資格や強力なコネがあったわけではなく、ごく普通のキャリアを歩んできた人が、それでも大きな年収ダウンを提示されずに転職を終える。その分かれ目がどこにあるのか、採用する側から見えていた景色を正直にお話しします。

40代転職の年収ダウンはなぜ起こるのか——元人事が見た三つの構造

まず知っておいてほしいのは、企業が年収を下げて提示するのは「あなたに魅力がないから」だけではないということです。私が採用の現場で見てきた年収ダウンには、主に三つの構造がありました。

1. 等級テーブルという「枠」の問題

多くの企業は、給与を個人の交渉力ではなく「等級テーブル」という枠組みで決めています。中途採用であっても、社内の既存社員とのバランスを崩さないよう、応募者のスキルや経験を社内のどの等級に当てはめるかをまず判断し、その等級の給与レンジの中でオファー額を決めるのが一般的です。つまり、あなたの経験がどれだけ優秀でも、その企業の等級テーブルの上限を超える提示はまず出てきません。年収ダウンの多くは、応募者の能力への評価ではなく、この「枠に収まりきらなかった」ことが原因で起きています。

2. マネジメント経験の「言語化不足」

40代の応募者は、多くの場合マネジメント経験や部門横断の調整経験を持っています。ところがこの経験が、面接や職務経歴書で「役職名」としてしか語られず、実際に何を判断し、どんな成果を出したのかが伝わっていないケースを何度も見てきました。採用側が等級を判断する材料は、肩書きではなく「何をどこまで任せられる人か」という具体的な情報です。ここが伝わらないと、実際の経験より一段低い等級で評価され、それがそのまま年収ダウンにつながります。

3. 「今の年収」の内訳が揃っていない

もう一つ見落とされがちなのが、比較する年収の中身がそもそも揃っていないという問題です。現職の年収に含まれる残業代やみなし手当、賞与の変動分を、応募者自身が正確に把握していないまま面接に臨むケースは珍しくありません。企業側が提示する年収は基本給と想定賞与だけのことも多く、単純な額面比較で「下がった」と早合点してしまう。実際には手取りベースではほぼ変わらない、というケースも私は何度も見てきました。

年収ダウンを防ぐために、面接前にやるべき五つの準備

ここからは、実際に私が採用側で見てきた「年収を大きく下げずに転職できた人」がやっていた準備を、具体的な行動として五つに整理します。

準備1:成果を「数字」ではなく「再現性」で語れるようにする

「売上を120%達成しました」だけでは、等級判断の材料としては弱いというのが正直なところです。私たち採用側が本当に知りたいのは、その数字の裏側にある「その人がいなければ達成できなかった部分」です。市場環境が良かっただけなのか、その人固有の判断や動きが数字を作ったのかを、面接官は必ず見分けようとします。準備段階でやるべきは、成果を数字で並べることではなく、「なぜ自分がやると再現できるのか」を一段掘り下げて言語化しておくことです。

準備2:マネジメント経験を「意思決定の範囲」で説明する練習をする

「部下は何人でした」という説明で終わらせず、「予算の決定権はどこまで持っていたか」「採用や評価の最終判断者だったか、それとも上長の承認が必要な立場だったか」を自分の言葉で整理しておく。この情報こそが、採用側があなたをどの等級に当てはめるかの直接的な判断材料になります。ここを曖昧にしたまま面接に臨むと、実力より低く見積もられ、それがそのまま提示年収に反映されます。

実際の面接でのやり取りを、NG例とOK例で比べてみます。

NG例
面接官「マネジメント経験について教えてください」
応募者「課長として、8名のチームをまとめていました。目標達成に向けてメンバーを指導していました」

これだけでは、面接官の側は「指導していた」の中身が全く見えません。指示を出す立場だったのか、評価や予算にまで責任を持つ立場だったのかが分からないため、無難な等級で判断せざるを得なくなります。

OK例
応募者「課長として8名のチームを率いていました。年間予算の策定と執行判断は自分の権限で行い、評価は一次評価者として自分が原案を作成し、部長が最終承認する体制でした。採用の合否についても、書類選考の一次判断は自分が行っていました」

同じ「課長」という肩書きでも、後者の説明であれば、企業側は等級テーブルの中でどこに位置づけるべきかを具体的に判断できます。曖昧な言葉を避け、権限の範囲を具体的な言葉に置き換える。これだけで、評価される等級が一段変わることも珍しくありません。

準備3:現職の年収を「基本給・賞与・手当」に分解しておく

面接で年収の話になったとき、「額面で650万円です」としか答えられないと、比較のズレが起きやすくなります。基本給がいくらで、賞与は年間何ヶ月分、固定残業代や住宅手当はいくら含まれているかを、あらかじめ紙に書き出しておく。これをしておくだけで、企業からの提示額が本当に下がっているのか、それとも手取りベースではほぼ同水準なのかを、その場で冷静に判断できるようになります。

準備4:年収以外の条件を「先に」整理しておく

役職、裁量権、勤務地、退職金制度、フレックスの有無——年収だけを見て「下がった、上がった」と判断すると、後で後悔することが少なくありません。私が面接官として見てきた中で、結果的に満足度の高い転職をしていた人の多くは、面接に入る前の段階で「自分にとって年収と引き換えにしてもいい条件、譲れない条件」を整理していました。何を優先するかが決まっていない人ほど、面接の場で年収の数字だけに気を取られ、冷静な判断ができなくなります。

準備5:「なぜ今の年収なのか」に自分の言葉で答えられるようにしておく

面接の終盤で「現在の年収の根拠は何だと思いますか」と聞かれることがあります。これは意地悪な質問ではなく、あなたの市場価値に対する自己認識を確認するための質問です。「会社の規模が大きいので」といった外的要因だけの答えでは、等級判断の材料にはなりません。自分の役割と成果に照らして、現在の年収がなぜ妥当だと考えているのかを、事前に一度言語化しておくことをおすすめします。これができている人には、無理に年収を下げる提示をする理由が企業側にもなくなります。

エージェント経由と直接応募、年収の決まり方はどう違うか

もう一つ、採用側にいた人間として正直にお伝えしておきたいことがあります。それは、エージェント経由の応募と、企業サイトからの直接応募とでは、年収が決まるプロセスに違いがあるということです。

エージェント経由の場合、担当者が候補者の経験を企業側の採用担当に「推薦文」という形で先に伝えます。この推薦文の中でマネジメント経験や成果が具体的に言語化されていると、企業側は面接の前から高めの等級を想定して臨むことができます。逆に、推薦文が経歴書の要約に近い薄い内容だと、面接官はゼロから評価をやり直すことになり、結果として無難な等級に着地しやすくなります。つまり、エージェントを使う場合は、担当者にどれだけ具体的な情報を伝えられているかが、面接前の段階ですでに年収に影響しています。

一方、直接応募の場合はこの「事前の推薦」が存在しないため、職務経歴書と面接だけで、準備1・2で述べた内容をすべて自分で伝えきる必要があります。どちらが有利ということではなく、それぞれのルートで「何が等級判断の材料になっているか」を理解した上で使い分けることが、年収ダウンを防ぐ準備の一部だと私は考えています。

それでも年収ダウンを提示されたときの受け止め方

ここまでの準備をしても、業界や職種を大きく変える場合など、一定の年収ダウンが避けられない転職は現実にあります。その場合に大切なのは、「下がった額」ではなく「下がった理由」を企業に確認することです。等級テーブルの都合なのか、経験のどの部分が評価されなかったのかを聞くことで、次の交渉材料にも、今後のキャリア設計にも活かせます。感情的に受け止めず、構造として理解しようとする姿勢が、結果的に自分を守ることにつながります。

私が面接官として見てきた中で印象に残っているのは、内定通知の面談で「今回の提示額は、御社の等級のどのあたりに位置づけられていますか」とだけ冷静に確認した応募者です。感情的に不満をぶつけるのではなく、構造を確認しようとする姿勢そのものが、担当者に「この人はきちんと状況を理解した上で判断できる人だ」という印象を与えます。その結果、入社後の早い時期に等級の見直しを検討する、という運用に発展したケースも実際にありました。年収の話し合いは一度きりの交渉ではなく、入社後も続く関係の入り口だと捉えておくと、目先の数字だけに気持ちを消耗されずに済みます。

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まとめ:年収は「交渉」ではなく「準備」で決まる

40代の転職における年収ダウンは、面接での交渉力の差で起きているように見えて、実際には応募前の準備の差で決まっていることがほとんどです。等級テーブルという枠組みを理解し、マネジメント経験を意思決定の範囲で語れるように整理し、現職の年収を分解し、譲れない条件を先に決めておく。この五つの準備は、特別なスキルがなくても今日から始められます。

年収ダウンを「運」や「相性」の問題にしてしまう前に、まずは準備の質を見直してみてください。派手なテクニックではなく、地味な棚卸し作業の積み重ねが、結果として一番確実に年収を守る手段になります。私が面接官として何百人もの提示年収を左右する立場にいたからこそ言えることですが、企業側が見ているのは応募者の話し方の巧拙以上に、語られている内容そのものの具体性です。ここを今日から一つずつ整えていってください。

面接での「実際の答え方」まで知りたい方へ

このブログでは、面接官が何を見ているかという考え方を中心に書いています。実際の面接でどう答えるか、質問別の回答テンプレートや、職務経歴書・二次面接・条件交渉までを含めた具体的な内容は、noteにまとめています。

元人事の本音|note(記事一覧はこちら)

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