【3つの原因】自分に強みがないと嘆く人へ|元人事が書類選考800枚で見た棚卸しの盲点

「本当に、何ひとつ思いつかないんです」——面談の場でそう言ったあと、黙り込んでしまった相談者がいた。強み、弱み、やりがいを感じた瞬間——頭では分かっているはずなのに、いざ書こうとすると「特にこれといって」という言葉しか出てこない。転職サイトのテンプレートに「あなたの強みを3つ書いてください」という欄があっても、そこだけ空欄のまま何日も放置してしまう。そんな相談を、私はこれまで何度も受けてきた。

私は人事として3年間、書類選考を800枚以上見て、面接に500人以上立ち会ってきたが、この「自己分析で手が止まる」状態は、転職を考える人の大半が一度は通る道だと感じている。しかも厄介なのは、手が止まっていること自体を「自分には強みがないからだ」と結論づけてしまう人が少なくないことだ。私が見てきた限り、それは事実ではないケースがほとんどだった。今日は、なぜ棚卸しが止まるのか、そして止まったときに何をすればいいのかを、実際に書類や面接で見てきた景色から具体的に書いていきたい。

自己分析が止まる人に共通する「あるある」

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相談を受けていると、自己分析でつまずく人にはいくつかの共通パターンがある。年齢や職種を問わず、驚くほど似た形で現れるので、まずはそれを整理してみたい。

  • 「頑張ったこと」を聞かれると、業務内容の説明になってしまう(例:「月次資料を作成していました」で終わり、そこにどんな工夫があったかが出てこない)
  • 「強みは?」と聞かれると、性格の話になる(例:「責任感があります」「コミュニケーション能力があります」で止まる)
  • 過去を振り返ろうとすると、うまくいかなかったことばかり思い出してしまい、そこで止まる

これは能力の差ではない。私はそう思っている。むしろ、実際に仕事をきちんとこなしてきた人ほど、日々の業務の中で行っていた工夫を「当たり前のこと」として意識せず、言語化する習慣がなかっただけ、というケースを何度も見てきた。仕事ができる人ほど自分の仕事を過小評価している、というのは大げさな言い方に聞こえるかもしれないが、書類や面接の場では実際によく起きている現象だ。

特に40代・50代の方からの相談では、「若い頃と違って、今さら自己分析をする必要があるのか」という声を聞くこともある。しかし経験年数が長い人ほど、記憶の中に埋もれている工夫や判断の量は多いはずで、掘り起こす価値もそれだけ大きい。むしろキャリアが長いからこそ、どこから手をつければいいか分からず止まってしまう、というのが実際のところに近いと感じている。

元人事の視点:棚卸しが浅いまま書かれた書類は、こう見える

書類選考の立場から正直に言うと、「棚卸しが浅いまま出された職務経歴書」には、ある共通した特徴がある。一つ例を挙げたい。

NG例(実際によくある書き方)
「営業として新規開拓を担当。既存顧客のフォローも行い、目標達成に貢献した。」

この一文だけを読むと、何が起きたのか、この人が何を考えて動いたのかがまったく見えない。「目標達成に貢献した」がその人固有の強みなのか、チームの成果に乗っただけなのか、書類上では区別がつかないのだ。担当者は同じような文面を1日に何十枚も見ることになるため、こうした書き方は残念ながら記憶に残らないまま通り過ぎてしまう。

OK例(同じ経験を、棚卸しをした上で書いた場合)
「既存顧客からの解約理由を分析したところ、価格ではなく『導入後のフォロー不足』が主因だと分かった。そこで契約後1か月と3か月のタイミングで訪問する仕組みを自分から提案し、上司の了承を得て試験導入。担当エリアの解約率は導入前の半期と比べて明確に改善した。」

両者の元になっている「事実」は、実はそれほど違わないことが多い。違うのは、本人が自分のやったことを「なぜそれをしたのか」「何に気づいたからそうしたのか」まで掘り下げて書けているかどうかだ。これはセンスの問題ではなく、棚卸しのやり方の問題だと私は考えている。

書類選考の担当者は、応募書類を隅々まで丁寧に読み込む時間を毎回十分に取れるとは限らない。だからこそ、読み手が立ち止まって「これはどういうことだろう」と興味を持てる一文があるかどうかで、その後の読まれ方が大きく変わってくる。工夫の背景まで書かれた一文は、それだけで書類全体の印象を底上げする力を持っている。

面接でも同じことが起きる。「その時、どう考えて動いたんですか?」と聞くと、多くの人が一瞬詰まってから、思っていたよりずっと具体的で面白い話を語り始める。その話が最初から書類や自己紹介に書けていれば、と何度も思ったことがある。棚卸しが浅いことは、能力が低いことを意味しない。ただ「見え方」で損をしているだけの人が、非常に多いということだ。

もう一つ、印象に残っている面接でのやり取りを紹介したい。ある候補者に「これまでの仕事で一番工夫したことは?」と聞いたところ、最初は「特にないです、ルーティン業務が多かったので」という答えが返ってきた。もったいないと思い、「では、入社した頃と今とで、同じ業務でも何かやり方を変えた部分はありますか」と聞き方を変えてみた。すると「そういえば、問い合わせ対応のテンプレート文を、部署内で共有するフォルダにまとめ直したことがあります。最初はバラバラだったので」と話し始め、そこから「なぜまとめようと思ったのか」「まとめた結果、何が変わったのか」まで、5分近く具体的に語ってくれた。この内容がもし書類の段階で一文でも書かれていたら、面接に進む確率そのものが変わっていたかもしれない、と私は感じた。

この候補者が特別だったわけではない。ただ「業務内容」で聞かれたときと、「工夫した部分」で聞かれたときとで、出てくる情報の質がまったく違う、という典型例だった。自己分析が止まる人の多くは、自分にこの候補者と同じような工夫がないのではなく、「工夫」という切り口で自分の仕事を振り返ったことが一度もないだけなのだと思う。

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今日からできる棚卸しの進め方(3ステップ)

では、実際に何から手をつければいいのか。私が相談を受けるときによく勧めている、書類にも面接にもそのまま使える3つのステップを紹介する。

ステップ1:「業務内容」ではなく「工夫した瞬間」を書き出す

まず、直近5年程度の仕事を思い出しながら、「うまくいった仕事」を3つ書き出してほしい。ただしここで書くのは業務内容ではなく、「その中で自分が何かを工夫したり、判断したりした瞬間」だ。

「資料作成」ではなく「資料の構成を、相手の役職によって変えるようにした」。「クレーム対応」ではなく「怒っている相手にまず結論から謝るのをやめ、状況確認を先にするよう変えた」。粒度は小さくていい。むしろ小さな工夫の方が、他人と被らず、その人らしさが出やすい。

ステップ2:「なぜそれをしたのか」を自分に問い直す

工夫を書き出したら、それぞれに対して「なぜそうしようと思ったのか」を一段掘り下げる。ここが自己分析の核心だと私は思っている。「なぜ資料の構成を変えたのか」→「以前、役員向けの説明で細部から入って途中で興味を失われた経験があったから」というように、行動の裏にある気づきや失敗を言語化する。この「なぜ」の部分こそが、面接官が本当に聞きたがっている部分であり、書類だけでは伝わりにくい部分でもある。

ステップ3:結果を「数字」だけでなく「変化」で語る

成果を語るとき、数字があるに越したことはないが、正確な数字を覚えていない、あるいはチーム成果で個人の数字を切り分けられないという人も多いだろう。その場合は無理に数字を作らず、「導入前後で何が変わったか」を具体的な状態の変化で語ればいい。「クレームの件数が減った」ではなく「クレームの一次対応で怒りが収まらず二次対応に回るケースがほぼなくなった」というように、状況の変化として説明する方が、誠実であると同時に説得力を持つことが多い。

この3ステップを、直近の仕事だけでなく5〜10年単位で3〜5個の経験に対して行うと、ノート1〜2ページ分の「素材」ができあがる。この段階では文章として整える必要はない。箇条書きのままでいい。ここまでできれば、職務経歴書を書くときも、面接で質問されたときも、答えに詰まることはかなり減るはずだ。

ステップ4:一人で完結させず、誰かに見せて客観視する

ここまでの3ステップは、あくまで自分一人で振り返った内容だ。ただ、自己分析には限界がある。自分にとって当たり前すぎることは、いくら掘り下げても「当たり前」のまま埋もれてしまうことがあるからだ。だからこそ、ある程度素材が集まった段階で、家族や信頼できる同僚、あるいは転職エージェントの担当者など、第三者に見せて感想を聞いてみることを勧めたい。「これ、意外と珍しいことですよ」と言われて初めて、自分の強みに気づくケースを何度も見てきた。自己評価と、他人から見た市場価値にはズレがあることが多く、そのズレに気づくこと自体が棚卸しの重要な工程だと私は考えている。

やってはいけない棚卸し:数字と実績の「盛り」

最後に一つだけ注意点を書いておきたい。棚卸しを進める中で、「もう少しインパクトが欲しい」という気持ちから、実際には出していない数字や、チーム全体の成果を自分一人の実績のように書き換えてしまう人が、ごくまれにいる。気持ちは理解できるが、これはお勧めしない。面接では、数字の根拠や具体的な状況を掘り下げて質問されることが多く、実態と食い違う説明は、話しているうちに本人が一番苦しくなる。私が面接官として見てきた限りでも、多少地味でも実態に即した話の方が、結果的に信頼感につながっていた。棚卸しは「盛る」作業ではなく、「埋もれているものを掘り起こす」作業だと捉えてほしい。

自分史・モチベーショングラフで「当たり前」を掘り起こす

ここまでの3ステップは、直近の仕事を思い出すやり方だった。もう一つ、効果があるのは時間軸を大きく取る方法だ。小学校高学年あたりから現在まで、印象に残っている出来事を年表のように書き出し、それぞれの時期に「テンションが上がったか、下がったか」を線でつないでいく。いわゆるモチベーショングラフだ。

ポイントは、成功体験だけを拾わないこと。「文化祭の実行委員を途中で降りた」「部活のレギュラーになれなかった」といった、一見マイナスに見える出来事も並べる。なぜテンションが下がったのかを掘ると、「自分で決められない状況が苦手」「準備不足で本番を迎えるのが嫌」といった、その人の判断基準が浮かび上がってくる。これは直近の実務経験だけを振り返っていては出てこない情報だ。

私が面談で見てきた限り、直近の仕事だけを掘り下げて行き詰まった人ほど、学生時代や前々職まで時間軸を広げると急に手が止まらなくなることが多い。理由は単純で、当時は「当たり前」だと思っていなかった分、今より素直に言語化できるからだ。

「短所」から強みを逆算する言い換えの技術

強みが出てこないとき、逆側から攻める方法もある。短所を先に3つ書き出し、それぞれを裏返してみるやり方だ。

NG例(裏返し方が雑なケース)
「優柔不断」→「柔軟性がある」

この裏返しは、面接官の手元では単なる言い換えのテクニックに見えてしまう。裏返す前に、その短所が実際にどんな場面で出たか、そのときどう対処したかまで書けているかで、印象は大きく変わる。

OK例(同じ短所を、場面まで含めて裏返した場合)
「決定を先延ばしにしがちで、以前は見積もりの提示に3日以上かかっていた。今はまず仮の数字を出し、後から修正すると決めている。結果として、判断は早くないが、修正を前提に周囲に早く共有できる人だと言われるようになった。」

短所を長所に言い換えるテクニック自体は珍しくない。差がつくのは、その短所が実際に業務のどこで表面化し、今どう対処しているかという「場面」の情報があるかどうかだ。ここが抜けていると、どんな短所を選んでも同じような文章になってしまう。

この2つのやり方――自分史での掘り起こしと、短所からの逆算――は、どちらか一方で十分というものではない。片方の切り口で出てこなかった要素が、もう片方からは出てくることがよくあるからだ。時間がなければ、まず短所からの逆算だけでも試してほしい。15分もあれば、3つの短所とその裏側にある場面を書き出すことができる。書き出したメモは、そのまま職務経歴書の自己PR欄や、面接での深掘り質問への回答の土台になる。

他己分析|友人や元同僚に「印象に残った行動」を聞いてみる

棚卸しを一人で進めていると、「これくらい誰でもできる」と自分の行動を過小評価しやすくなる。そんなときに効果があるのが、第三者に自分について聞く「他己分析」だ。同じ場面を横で見ていた同僚や友人に聞くと、自分では意識していなかった行動を、具体的なエピソードとともに指摘してもらえることが少なくない。

聞き方にもコツがある。「私の長所は?」と抽象的に聞くと、「優しいところ」のような当たり障りのない答えしか返ってこないことが多い。そうではなく、「一緒に仕事をしていて、助かったと感じた場面はあった?」のように場面を限定して聞くと、「あの時、資料を早めに共有してくれて助かった」のような具体的な言葉が返ってくる。この具体性こそが、そのまま書類や面接で使える棚卸しの材料になる。3人程度に同じ質問を投げてみて、共通して挙がる行動があれば、それが再現性のある強みだと考えていい。自己分析の視点を体系的に整理したい場合は、自己分析の「書き出し方」に迷ったら|元人事が教える、棚卸しに使う5つの視点とテンプレートもあわせて参考にしてほしい。

「特別な実績がない」と感じる人ほど見落としている、日常の行動パターン

「大きなプロジェクトを成功させた」「表彰された」といった分かりやすい実績がないと、強みを語れないと思い込んでいる人は多い。しかし採用側が実際に見ているのは、実績の規模ではなく、日々の業務の中でどう考え、どう動いたかという行動のパターンだ。

たとえば「締め切りより早く提出することを習慣にしていた」「頼まれる前に次の作業を準備していた」といった、本人にとっては当たり前すぎて語る価値がないと感じる行動こそ、面接官からすれば「主体性」「先読みして動く力」として評価対象になる。棚卸しで手が止まったときは、「特別な出来事」を探すのではなく、「毎日の中で無意識にやっていたこと」に目を向けてみてほしい。自己分析で見つけた強みが面接でうまく伝わらないという場合は、自己分析はしたのに面接で伝わらない人の共通点|元人事が800枚の書類・500人の面接で見た棚卸しのズレで、そのズレの原因を詳しく解説している。

まとめ

自己分析やキャリアの棚卸しで手が止まるのは、能力が足りないからではなく、多くの場合「業務内容」を思い出そうとしてしまっているからだ。思い出すべきは業務内容ではなく、その中にあった小さな工夫や判断、そしてその裏にある「なぜ」である。書類選考や面接の現場で私が実際に見てきたのも、この掘り下げができている人とできていない人の差だった。

今日紹介した4つのステップ——工夫を書き出す、なぜを掘る、変化で語る、そして誰かに見せる——は、特別な準備も時間も必要としない。まとまった時間が取れる休日にこそ向いている作業でもある。次に転職を意識したときではなく、今この記事を読んだタイミングで、まず1つだけでも書き出してみてほしい。それだけで、次に書類や面接に向き合うときの言葉の重みが、きっと変わってくるはずだ。

面接での「実際の答え方」まで知りたい方へ

このブログでは、面接官が何を見ているかという考え方を中心に書いています。実際の面接でどう答えるか、質問別の回答テンプレートや、職務経歴書・二次面接・条件交渉までを含めた具体的な内容は、noteにまとめています。

元人事の本音|note(記事一覧はこちら)

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